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「広報型社史」という新しいかたち――社外にも伝える社史が、いま注目されています

2025.06.18

社史/年史/記念誌

先日、ある企業から社史制作のお見積もりをご依頼いただいた際、こんなご相談がありました。

「社員や家族、そして近所の方々をターゲットに作りたいんです」

思わず、その一言を聞いた瞬間に「それはいい視点ですね」と返してしまいました。

というのも、社史というと今でも“社内向けの記録物”という印象が根強いものです。創業からの歩みを年表形式でまとめて、過去の出来事を網羅的に記録する。社史=アーカイブ、のようなイメージです。

もちろん、そうした“重厚な社史”は今もなお主流です。長年の経営の軌跡をしっかりと残す、会社の礎を可視化する――その意義は大きいですし、なくなることはないでしょう。

でも、近ごろ少しずつですが、外に向かって“伝える”ことを意識した社史も増えてきています。ここでは仮に、それを「広報型社史」と呼びたいと思います。

 

「広報型社史」とは?

広報型社史は、単なる記録ではなく“メッセージ”として会社の姿を外に向けて届ける、そんなスタイルの社史です。社員やOBに限らず、そのご家族、地域の方々、取引先、求職者、学生――社外にいる多くの人たちにも「この会社って、どんな会社なんだろう?」という問いの答えを伝える役割を担います。

そして何よりも特徴的なのは、その語り口に“体温”があること。会社自身の言葉で、会社の空気を、そのまま届けようとする姿勢がにじんでいます。

 

なぜ今、「広報型社史」なのか

時代が変わり、会社と社会との距離感もまた変わってきました。以前であれば「社内のことは社内に向けて」が当たり前だったものが、今はもうそうではありません。

たとえば、長く地場で事業を続けてきた企業が、その信頼感や地域への思いを改めて発信したいと考えたり。あるいは、社員の家族に対して「こういう会社なんですよ」と伝える手段が欲しかったり。さらに言えば、採用の場面で「うちの会社、堅そうに見えるかもしれないけど、実はこんな人たちが働いてるんです」と伝える“きっかけ”になるツールを求めていたりします。

当社でお手伝いした建設業のお客様も、まさにそんな目的から広報型社史を制作されました。もう5年前のことですが、新規顧客への営業ツールとして、また採用活動で配布する資料として、今も現役で活用されています。紙面がフランクで読みやすいこともあって、反応は上々。最近も「もう少し部数を増やしたい」と増刷のご依頼がありました。

 

中身は“やわらかく、ひらかれた構成”に

広報型社史は、その構成にも特徴があります。従来のような「創業から現在までを年表で一気にたどる」ような構成ではなく、むしろ“今”の会社を丁寧に見せていく紙面づくりが中心になります。

たとえば、地域のお祭りや清掃活動といった日常の地域交流。社員紹介や、若手社員同士の座談会。部署ごとの働き方や、ちょっとした仕事の裏話。それぞれの記事が、会社を“人の集まり”として描いていくような構成になっているのです。

もちろん、そうした紙面には写真が欠かせません。そこに写る表情や現場の雰囲気は、何よりの情報になります。だからこそ、文章もできるだけ“素の言葉”で語られることが大切です。読む人が、その場の空気を想像できるような、そんな一冊を目指します。

例えるなら、一般的な社史が「書籍」だとしたら、広報型社史は「雑誌」のようなもの。体系的に記録するというよりは、読みやすく、手に取りやすく、そして自然と“会社のことが伝わってくる”ような構成です。

 

社史のあり方も、多様でいい

誤解のないように言えば、広報型社史が唯一の正解だというわけではありません。しっかりと記録を残したい、形式的な整合性を大切にしたい、そういったニーズには従来型の社史がベストです。

でも、「社史ってもっと自由でいいんじゃないか?」という視点が広がりつつあるのも事実です。記録として残すだけではなく、“伝える”ことを目的にすることで、社史はもっと多くの人に届き、役に立ち、そして残っていくものになります。

会社の節目に社史を検討する機会があれば、「誰に読んでもらいたいか?」という問いから始めてみてください。その先には、“記録”と“発信”の間にある、新しい社史のかたちが見えてくるはずです。