「この件、触れない方がいいんじゃないか」 -社史や年史・記念誌をつくっていると、必ずそう言われる瞬間があります。
創業者の退任劇、経営危機、トラブル、内部対立……いわゆる会社として触れにくいマイナスの出来事です。
社史というと、華々しい歩みや功績ばかりが並ぶイメージがあるかもしれません。たしかに、会社の記念誌としての性格を持つ以上、明るく前向きなトーンでまとめたいという気持ちはよく分かります。
でも、それだけでは社史にはなりません。
社史とは、“良いことしか書かない記録”ではない
そもそも社史の役割は、自社の歩みを客観的な記録として残すことです。
そこにあるべきなのは、いい話だけを集めた“成功のストーリー”ではなく、事実としての歴史です。
むしろ、大きなトラブルや失敗、困難をどう乗り越えたか。そこにこそ、会社の本質や強みが表れるとも言えます。
書くかどうかではなく、“どう書くか”を考える
もちろん、「全部正直に書けばいい」という話でもありません。
読んだ人が傷つく表現や、名誉を損ねる内容をそのまま出すのは不適切です。
大切なのは、事実を踏まえながら、誠実に伝える工夫をすることです。
たとえば――
→ ○「経営方針をめぐる対立から、大きな人事の転機を迎えた」
×「会社が傾いた」
→ ○「経営環境の急激な変化により、難しい判断を迫られた時期もあった」
このように、語り口を工夫しながら、“なかったこと”にはしない。それが社史制作者としての誠実さだと、私たちは考えています。
触れにくい歴史は、未来のための光になる
今振り返ると、会社にとっての“暗黒期”だったような出来事も、視点を変えれば「そこを乗り越えて今がある」という説得力のある物語に変わります。
未来の社員が社史を読んだとき、順風満帆の成功談ばかりが並んでいたら、「これは自分の会社の話じゃない」と感じてしまうかもしれません。
けれど、苦労や挫折が書かれていれば、「自分たちもまたこの歴史の一部なんだ」と感じることができるのです。
会社の美辞麗句を並べるだけの社史では、社内にも社外にも響きません。良い時代も悪い時代も、すべてが“歴史”です。
だからこそ、濁してもいい、ぼかしてもいい、それでも書くことが大切だと考えます。